「仮面浪人」という言葉をご存じだろうか。現在の大学に在籍しながら、別の大学への進学を目指して密かに受験勉強を続ける学生のことを指す。医学部医学科という、最も狭き門の一つに入学した学生の中にも、この仮面浪人を選ぶ者が一定数いる。
私の知っている中にも、すでに医学部に在籍しながら、より偏差値の高い大学への進学を目指して再受験した学生がいた。地方国立大学→旧帝大、旧帝大→別の旧帝大など、パターンはさまざまで、彼らの動機はおおむね「学歴を重視したい」「もっと上の環境で学びたい」「将来の選択肢を広げたい」といったものだ。
特に旧帝大医学部は、医師人生において大きな影響力を持つことがある。学閥、研究業績、医局の規模などを考えると、「出身大学」の持つ意味は決して小さくない。だからこそ、一度合格を勝ち取ったにもかかわらず、再び厳しい受験勉強に身を投じる決断をするのだろう。
ただ一方で、こうした仮面浪人の道を歩んで「大成した」と胸を張って言える人は、実のところあまり見かけない気がする。晴れて合格して医学部を移っても、その後の医師としての成功に直結したかと言われると、疑問が残る。むしろ、環境を変えることに満足してしまい、その後の努力が続かなかったケースもあった。そこには「学歴を変えること自体が目的化していた」という、ある種の自己満足の側面も否めない。
医学部は6年間という長い時間を過ごす場であり、卒後も初期研修、専門医研修とステップが続く。結局のところ、医師として評価されるのは「どこで学んだか」よりも「何をしてきたか」「どんな人柄か」といった別の要素であることが多い。もちろん、学歴が影響を与える場面がないわけではないが、それが全てではない。
仮面浪人という選択は、現状への違和感を原動力にした一歩であるとも言える。ただし、それが本当に必要な一歩かどうかは慎重に見極めるべきだ。学歴の再獲得に多くのエネルギーを費やす代わりに、今ある場所で何を積み上げるかに注力する方が、長期的には大きな成果につながる可能性もある。
「もっと上を目指したい」という気持ちは尊い。しかし、それが本質的な成長につながっているかどうか、自問しながら進むことが大切だろう。
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